こんにちは。ディレクターの小林です。
さて、WEBディレクターに向けた、校閲・校正シリーズ10回目。
今回も、ガリガリとHPが削られると思います。心の準備はいいですか!?
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文化庁の「国語に関する世論調査」平成16年~20年の調査結果をまとめました。
重複していた語句は省いています。
まずは、誤用の方が多い語句から!
(注:文化庁は「正誤」とは表現していません。正誤の見解については、間違えやすい慣用句①の記事を参照ください)
正 | 誤 |
足をすくわれる (16.7%) | 足下をすくわれる (74.1%) |
これは…間違えて使っていました。「足をすくわれる」が正しいと知ったあとも、間違えそう!! え~と、無理やりこじつけて覚えるなら、「足元は足自体じゃなく、足の周辺=土なので、土を掬ったんじゃ徒労に終わる。足自体を掬わないと!」ですかね…。 |
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上を下への大騒ぎ (21.3%) | 上や下への大騒ぎ (58.8%) |
これも間違えていました! 上を下へというのは、「上(の物)を下へ、下(の物)を上へ移動する」という情景を示しており、さらに「上を下へ」の言葉だけで、「入り乱れて混乱するさま」や「あわてふためく様子」を示す言葉だったのですね。 | |
論陣を張る (25.3%) | 論戦を張る (35.0%) |
「論陣」ではなく「陣」だけで考えれば、正誤は簡単に分かりますね。戦の時に「陣を張る」という言葉はあるけれど、「戦を張る」とはいいません。 | |
采配を振る (28.6%) | 采配を振るう (58.4%) |
ま、間違えていました…。そうか…「采配を振る」なんですね…「腕を振るう」と一緒くたになっていて、両方とも「振るう」だと勘違いしていた。 【振る】=①からだの一部を、また物の一方の端をもって上下・左右・前後に何度も繰り返すようにして動かす。②割り当てる。仕事や役割を与える。 【振るう】=思う存分に力を働かせる。十分に発揮する。 「料理の腕を振るう」のように、自分の能力を発揮するなら「振るう」だけど、「采配(指揮棒)」自体は物品だから「振るう」じゃ、「采配(指揮棒)」自体に能力が備わっている魔法のステッキみたいなニュアンスになってしまうのか…? |
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青田買いする (29.1%) | 青田刈りする (34.2%) |
今はまだ売り物にならない状態だけど、将来の豊作を期待して稲穂が実る前の青い田んぼを買うのです。…まだ稲が青いうちに刈り取っちゃったら、一銭にもなりませんよね…。 ただ、慣用句ではなく、戦術名として「青田刈り」という言葉があり、兵糧攻めの一種のようです。 |
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熱にうかされる (35.6%) | 熱にうなされる (48.3%) |
「熱にうなされる」って…苦しそうですね、風邪ですか?って聞きたくなる(笑) これは慣用句ではなく、風邪の症状の説明です。(笑) | |
汚名返上 (38.3%) | 汚名挽回 (44.1%) |
…私、ちゃんと使えているかな? 挽回するのは、「名誉」ですよね。「名誉挽回」。 「汚名挽回」じゃ、再び「汚名」をかぶることになってしまう。(笑) 使う時、ちゃんと気をつけないとダメですね! |
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あいきょうを振りまく (43.9%) | あいそ(う)を振りまく (48.3%) |
「愛嬌を振りまく」は、可愛いですけどね。「愛想を振りまく」は、胡散臭いです…。 |
次に、正答率のほうが高い語句です!
正 | 誤 |
溜飲を下げる (39.8%) | 溜飲を晴らす (26.1%) |
【溜飲】=飲食物が胃にとどこおって、酸性の胃液がのどに上がってくること。 あのすっぱいやつですね…。それを下げるということは、すっぱいやつをごっくんと飲み下しているということですね…いやだなぁ…。 「溜飲を下げる」の意味は「胸をすっきりさせる。不平・不満・恨みなどを解消して、気を晴らす。」ですが、すっぱいのを飲み込んでも、全然すっきりはしませんよ(笑) しかし、「雪辱を果たす」の誤認も「晴れる」でしたね。すっきりさっぱりする系の言葉は、「晴らす」と誤解しやすいようです。 |
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噛んで含めるように (43.6%) | 噛んで含むように (39.7%) |
【噛んで含める】=親が、食物を噛んで柔らかくして子供の口に含ませてやる。 親鳥が雛にエサをあげる情景が思い浮かびますね。それぐらい、理解できるように丁寧に言い聞かせる、という意味の言葉ですが…。「噛んで含むように」じゃ、その噛んで柔らくしたご飯を雛にあげずに、リスのように自分の頬袋に溜め込んでいる状態ですよね(笑) |
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お眼鏡にかなう (45.1%) | お目にかなう (39.5%) |
う~ん???? 謙譲語の「おめにかかる」が混じったの?? 眼鏡かけてなく裸眼だから!っていう主張でしょうか…。 | |
腹に据えかねる (74.4%) | 肝に据えかねる (18.2%) |
「肝に据えかねる」と答えた人は、「腹に据えかねる」と「肝が据わる」が、混じってしまったのでしょうかね? | |
舌の根の乾かぬうちに (53.2%) | 舌の先の乾かぬうちに (28.1%) |
えーっと、考察不可能。…聞きかじりでも間違いようがないと思うのだけど…。 | |
心血を注ぐ (64.6%) | 心血を傾ける (13.3%) |
これも、論陣のようにちょっと言葉を単純にしてみれば分かりますね。「血を注ぐ」はありだけど「血を傾ける」とはいいませんよね。傾けるのは、血ではなく「情熱」ですよね~。 | |
石にかじり付いてでも (66.5%) | 石にしがみ付いてでも (23.0%) |
2つの言葉の状況はほぼ一緒ですね。でも、「手でしがみつく」より「歯でかじりついてでも」の方が、必死さがありますよね。しがみつく程度じゃ普通すぎて温いのか。(笑) | |
言葉を濁す (66.9%) | 口を濁す (27.6%) |
「口を濁す」って…言葉そのまま受け取ると汚い…清濁併せ呑む適な感じ(しかし[清]はなく[濁]だけ)で、口の中に泥が入ってそう…。 「濁す=曖昧にする」なのだから、言葉は曖昧にできても、口は曖昧にはならないよ! 最近の辞書は「口を濁す」も掲載しているようだけど、さすがにこれは違うでしょう…。 |
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そうは問屋が卸さない (67.7%) | そうは問屋が許さない (23.5%) |
う~ん…なぜ間違えるのか謎。問屋=卸売り業者だから…卸す・卸さないは問屋の采配だけど、問屋に許しを得る必要はないですよね。 | |
火を見るより明らかだ (71.1%) | 火を見るように明らかだ (13.6%) |
「書経」盤庚の上「惟汝含徳、不惕予一人、予若観火」の「予若観火」が語源であると、主に解釈されているようです。 「火を見るよりも」「火を見るように」の日本語の違いは微妙なニュアンスですが、漢文の訳は「火を見るより(も)」とされていました。「火を見るように」よりも「火を見るよりも」の方が「より明らか」が強調されますね。 |
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出る杭は打たれる (73.1%) | 出る釘は打たれる (19.0%) |
確かに、釘の頭が出てると危ないから、打ち付けてしまうけれど(笑) 「横並びに立てた杭の高さをそろえるために、背が高い杭を打つ」というシチュエーションを思い描けば、間違えませんね。 |
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目から鱗が落ちる (80.6%) | 目から鱗が取れる (8.7%) |
「目から鱗が取れる」って、斬新。まあ、シチュエーション的には、鱗が落ちるのも、鱗が取れるのも、同じなのだけど…。 |
2回に渡って慣用句を紹介しましたが、みなさんの正答率はどうでしたか?
ところで…最近の辞書は、新しい言葉をすぐに掲載するようになりましたよね。
たしかに言葉は時代と共に移り変わってゆくものなので、
「今、みなが使う言葉」が載っていないのは使い勝手が悪いのかもしれない。
だけど、辞書って、迷った時・分からない時に正誤を確かめるよすがでもあると思うのです。
「本来の意味ではないけれど、最近良く使われるからそれも掲載する」というスタンスだと、
「辞書をひいて確かめる」ことが出来なくなってしまします。
新しい語句・最近の言い回しを掲載するのも大事なのかもしれないけれど…
たとえば、「お眼鏡にかなう」が長い間親しまれてきた言い方なのに、
「お目にかなう」も最近よく使われるようになったからと辞書に掲載されてしまうと、
その言葉は余計に混乱していきますよね…。
辞書への掲載は、もうちょっと長いスパンで言葉の移り変わりを確かめてからにして欲しい、と
思います。
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調査書面に載っていたのでそのまま記載しましたが、
「出る杭は打たれる」は、慣用句ではなく、諺(ことわざ)ですよね。
…と、いうことで、次回の「語彙の増やし方」は、諺(ことわざ)の予定です~!
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~今回の記事を書くにあたってお世話になったサイト~
>文化庁「国語に関する世論調査」(http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/yoronchousa/)
>言語由来辞典(http://gogen-allguide.com/)
>故事・ことわざ辞典(http://kotowaza-allguide.com/)
>kotobank(http://kotobank.jp/)
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